Kotobanoyukue

自分が何者か忘れぬように

私が選んだのはカスかもしれない

 風邪をひいた。自分の空咳で目が覚めて、リビングに行く。いつもリビングで寝てるはずの夫が帰っていない。そういえば、今月に入ってからほとんど帰っていない。 

 

娘を学校に送り出し、熱を測る。37.2。微妙な体温に舌打ちしながら、会社に少し遅刻する旨の連絡を入れる。体が猛烈にだるい。換気扇の下でタバコを吸いながら、コーヒーを沸かしていると玄関から鍵を開ける音がする。ようやくのご帰還か。


本人はやたら明るい調子でなんやかんや話しかけてくる。一通り私の機嫌伺いをした後、どさっとソファに横になり、「松本人志のドキュメンタル」を見始め、速攻でワハハと笑ってる。

ビビット見たいから変えんといてくれる?」初めて夫に声をかける。「ああ、ごめん」のビビットに変える夫。別にビビットなんて見てないんだけど。ドキュメンタルを取り上げられた旦那は、スマホポケモンGOをし始める。娘との交流の建前で始めたゲームに完全にハマってるおっさん。急に「よし!パパと置きに行くぞ!」とか、よくわからない用語で娘とキャイキャイしてる。お前が置きたいだけろが。

 

ほとんど残したコーヒーのマグカップを洗い無言で会社に行く。玄関先で「松本人志のドキュメンタル」の音声に変わってることに気づく。エレベーターで上階に住むやたら子沢山なファミリーと乗り合わせ、笑顔で挨拶をする。マンションを出ると近くの小学校から子供たちの笑い声が聞こえる。風が冷たいのに、すでに冷や汗をかいている。平和な朝なのに、なんでうちの家はこんな殺伐としてるんだろうって思う。


崩れる 結婚にまつわる八つの風景 (角川文庫)

崩れる 結婚にまつわる八つの風景 (角川文庫)

「私が選んだのはカスかもしれない」

貫井徳郎の小説の一節を思い出す。

この小説の主人公は、無職(イラストレーター)の夫とニートの息子を養う働く母の話だ。

「私が選んだのはカスかもしれない」

この気持ちが私にはよくわかる。カスだと気づくのって意外と長い時間がかかるのだ。相手が変わるのが待ちながら時は過ぎ、確信した時は、もう身動き取れない状態になっている。

ネタバレすると、この主人公は夫と息子を殺害するんだけど、私はどうする?たぶん何もしない。気力が、気力がない。